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東京高等裁判所 昭和37年(ネ)2931号 判決 1969年1月29日

控訴人(被告)

岩瀬正雄

代理人

椎名良一郎

ほか三名

被控訴人(原告)

森松之助

ほか二名

代理人

安達幸衛

ほか二名

主文

本件各控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

原判決主文第二項は左のとおり更正された。

「被告は、原告森松之助、同森鉦対にして金二五万五、四四八円および昭和三七年一〇月二三日より明渡し済みに至るまで一ケ月金四、五二八円の割合による金円を支払らわねばならない。」

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人らの各請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人らは控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張および証拠関係《以下省略》

理由

当裁判所も被控訴人らの請求をいずれも認容すべきものと判断するが、その理由は、つぎに付加するほか原判決理由欄に説示するところと同じであるから、これを引用する。ただし、原判決一一枚目表八行目の「賃料相当額」とあるつぎに「(各期間の一箇月の賃料相当額がいずれも被控訴人らの主張する金額となるのでそれを基礎とする。)」と挿入し、同九行目の「金二五万六、三二四円」とあるのを「金二五万五、四四八円」と訂正する。したがつて、原判決主文第二項中の「金二五万六、三二四円」とあるのは「金二五万五、四四八円」とすべきところの明白な計算上の誤謬によるものであるから、ここにこれを更正する。

控訴人は当審において本件建物等の買取請求権を行使した旨主張するので、この点について考える。

控訴人が昭和三八年六月一九日午前九時三〇分の当審第二回口頭弁論期日において、被控訴人森両名に対し、借地法第一〇条に基づき、本件建物等を買い取るべきことを請求したことについては、当事者間に争いがない。しかしながら、<証拠>を総合すると、昭和二七年三月一日平井(編者注=土地賃借権の無断譲渡人)と被控訴人森両名との間において本件土地賃貸借契約が締結された際、その特約として賃貸借の目的土地中原判決別紙図面ABCウAの各点を結ぶ範囲の土地18.87平方メートルおよび同図面ラウロハムイラの各点を結ぶ範囲の土地29.20平方メートルを賃借人たる平井においていずれも私道敷地として提供し、同番地の居住者および一般の通行に使用させることを約し、平井は同被控訴人らに対しその旨の誓約書(甲第二号証の二)を差し入れたこと、右誓約書の日付が昭和二七年二月二九日となつているのは、前記控訴人が右特約につき承諾してその旨の誓約書を差し入れることをもつて右賃貸借契約締結の前提条件とされたからであること、しかるに、平井は、約旨に反して、右29.20平方メートルの土地上に本件板塀(イ)を設置してこれを私道敷地に提供しなかつたので、被控訴人森松之助は、昭和二八年二月二五日到達の書面をもつて、平井に対し一箇月以内に右板塀を撤去するよう催告したにもかかわらず、平井はこれに応じなかつたのみならず、その後被控訴人森両名と控訴人との間の本件土地(イ)(ロ)の明渡に関する調停事件その他における両者間の折衝においても、控訴人において右私道敷果提供のことについては絶対に応ずる態度を示さなかつたこと、ここにおいて被控訴人森両名は昭和三一年七月一一日到達の書面をもつて平井に対し右契約上の債務不履行を理由として本件土地賃貸借契約を解除する旨通知したことがいずれも認められ、右認定を動かしうる証拠はない。そして、前記特約は、前記認定の事実および前記私道敷地として予定された土地の場所的関係等からみて、単なる付随的な約款にすぎないものと解することはできず、かえつて、本件土地賃貸借契約の要素的内容をなすものであつて、したがつて、前記認定の本件土地賃貸借契約解除は有効にされたものと認めるべきである(前記認定のように、右解除の前提となつた催告は、賃貸土地の共有者の一人である控訴人森松之助が単独でしているのであるが、前記認定のような内容の催告自体は一種の保存行為として単独でなしうること明らかであるから、このことによつて右解除の効力が左右されるものではないこというまでもない。)。

ところで、控訴人が昭和二七年一二月二六日本件建物等を平井から買い受けた際、平井の本件土地賃借権(その目的土地の範囲について本件土地(ロ)が含まれるか否かについては当事者間に争いがあるが、その点の判断はしばらくおくこととする。)の譲渡を受けたが、これについて地主たる被控訴人森両名の承諾が得られなかつたことについては、当裁判所の引用する原判決理由中に認定するところであるから、控訴人が本件土地賃借権を平井から譲り受けた後に前記賃貸借契約解除がなされたものであることが明らかである。しかしながら、前記認定のように控訴人が平井から本件土地の賃借権を譲り受けた当時、すでに賃借人たる平井は賃貸借契約上の債務不履行の状況にあつたのであり、しかもその後控訴人もこれが実現を拒否する態度に出ているのであるから、かかる事実関係のもとにおいて賃貸借契約上の債務不履行を理由として賃貸借契約が解除されたような場合には、これにより控訴人の借地法第一〇条に基づく買取請求権は消滅に帰し、その後にされた控訴人の本件買取請求はなんらの効力をも生じないものと解するのが相当である。してみれば、その余の争点についての判断をまつまでもなく、控訴人の買取請求権行使の主張も採用することができない。

以上のとおりであるから、被控訴人らの本件各請求を認容した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がない。

よつて、民事訴訟法第三八四条、第八九条、第九五条に従い、主文のとおり判決する。(青木義人 高津環 弓削孟)

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